雑記2

この間家庭訪問に行きました。その時、先生にとって生きるということはどういうことですか。子供に何と言えばいいでしょう。私たちは、答えることができませんでした。と、両親に言われました。

生きる意味、みたいなものを考えたとき、多くの人は自らが積極的に何かを切り開かなくてはならない、そうあるべしと考える傾向にあると思います。特に若者、それも行き詰った人にとってはもちろん、そうでない人にとってもそれは確かに一面として真理です。人は何かがない、あるいは何もない、という状態を恐れます。

それを自らの才能によって切り開くことができる、なかったものを、あるものに変えることができるのだとすれば。例えば、社会的にひとかどの人物となれる、とか。多くの人から評価される何がしかを作り上げる、とか。それはつまり、不安定だったものを安定させる、といったように。なにものでもなかった自分が、なにものかになれた瞬間。心に安寧をもたらすかもしれません。

では、そのようにできない人はどうするのか。ひとかどの人物にはなれない。したことは誰からも評価されない。果たして自らが社会を構成する最小単位である意味は、どこにあるのだろうか。そう考えたとき、その時の心情はとても寂しく、また、惨めですらあるかもしれません。きっとそうでしょう。

けれども、あなたから見て 「才能もあり、何がしかの地平を切り開いて」 見える人、多くの人から見て 「ひとかどの人物」 として写り、「何がしかのことを成し遂げた」 という風に見える人にしても、もしかすると実際のところ、漠然とした不安を抱き、押し並べてのものに対し不満で不快で仕方がない。そんなこともあり得るでしょう。

客観的にどうか、とか、人と比べて相対的にこうだ、というものに心を惑わせるのは、そもそもどうなのでしょう。無意味であるとは言いません。常識は大事です。その常識は多くの人と生活する中で営々と紡ぎあげられてゆきます。故に、誰かの尺度を知る行為は、現代社会で生きるうえで基本的な素養となるはずです。

そのことと、常に他者をものさしにして自らを測ることとは、違います。幸せな人が存在することで、相対的に誰かが不幸になることはありません。不幸な人がいることで、相対的に誰かが幸せになるということにはなりません。貧富の差はあるでしょう。そのところからすれば、物質的な豊かさが常に幸福の指標になる人にとっては、誰かの幸せは誰かの不幸、あるいは、自分の不幸、という結論になり得ます。

僕は主観を大事にして生きています。自分の目からみて綺麗だな、と感じるもの、美しいな、と思える出来事。楽しく幸せだと感じる時間。なるべくたくさんそういうのを見るように、過ごすようにして生きています。その過程で誰かを傷つけることや、あるいは自らが袋小路に陥ることも、やはり多いです。

だけど、その時々に美しいと思った感情、経験、焼き付けた光景、そして誰かと過ごした時間 は絶対です。それは自らの選択で以て手に入れた大事な思い出です。重要なのは、それらが押し付けられた出来事ではなく、自分の主観と選択とでもってそこにたどり着いた、獲得した事象であると、そのことです。

矮小な自分でも、能力のない自分でも、主観を大事にし少しの金と行動力さえあれば、美しく綺麗で愉快なものと出会える。そこにあって、僕自信が物質的に豊かであるかどうか、とか。他の人より少し、いやかなり貧しい、という事実であるだとか。そういうのは問題になりません。かなりどうでもいい指標です。

お金を持っている人が美しく見えるのなら、それに近づくべく何かをするべきなのでしょう。だけど僕にはそういう観点がないので、それらのことはよく分かりません。知人が子供をもうけ幸せそうにしているのが綺麗だ、と思うのなら、自らもそれを獲得するべく努力をするべきでしょう。だけど僕にはそんな目線がないので、それらのこともよく分かりません。

何となく生きています。飯が美味い、とか、今日は晴れた、とか、野菜が安かった、とか、今度旅行に行く、とか。或いは、好きな人と同じ時間を過ごしたい、とか。僕はそういう単純な行為の中に楽しく、美しく、若しくは綺麗である何か、そして幸せな時間を求めます。変わることばかりが絶対である世の中にあって、そうそう変わらないのは食べることと寝ること、あとは自分の知らない場所や景色が世界のどこかに確実にあること、そして共に生きたいと、居たいと思うこと。そう思うに至ったゆえです。要するに、極めて即物的なわけです。それだけのことに対して、生きることは悪くない、と思えます。

仮に、そういう 「美しい」 「好きだ」 と思えるものや人が自分の中から煙のように消え去ってしまえば。この世には美しいものごとや時間なんて何もない、辛苦ばかりが真実だ、と思うようになってしまえば。その時は、生き方を考えねばなりません。

僕は、そんな感じです。まあ、そんなこと言いませんでしたが・・・。