Ashi.Dumerna

名探偵コナンが何故こんなにも人気を博すのかというと、もちろんその鬼気迫るストーリーが面白く、謎解きの爽快感が一押しだからというのもありますけれど、1つに我々人類が百年河清を俟ってもなし得ることのできなかった強くてニューゲームを実践しているからである。と、いいたい。知識や経験を持ち越したまま過去に戻れれば・・・。誰もが一度は思い描いては、過去に残した後悔を募らせ悶々とした時間を過ごしたとこがあるんじゃ?あの時の一言がなければ違う結果に…。あの学校に行けばよかった!人生の分かれ道に戻りたくなることは多々ある。

小学生に戻って英検に合格したり、高校レベルの問題をすらすら解く。これもまた一興。羨望の眼差しを受けつつ、神童の名を欲しいがままに薔薇色の人生を歩む。馬鹿馬鹿しい?たられば?じゃあなんだ、この考えは軽佻浮薄か!?軽慮浅謀とでもいいたいか!?嗚呼、強くてニューゲームしたいですなあ。

しかし我々はその一方で、精神的には1歳たりとも若返りたくなどないという思いも持つ矛盾した悲しい生き物でもある。すなわち、今現時点での精神状態が、常に生まれてから一番良い、と言うことにしている。

 

「オールとか?もう出来ねーよな。なんつーか、あれは若さの特権だったよね笑

大学生にもなって、俺らも年取ったよなあ笑

あ、じゃあ、お前はこっちか。お疲れ〜」

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「かぁ〜。大学生のお疲れーほどイラつくもんはないっすよね。お前ら働いてんのかって笑

自分の金で家賃払ってから言ってほしいっすよね笑 ま、俺らも?コールとか?やってる時代ありましたけどね?

ところで、今日この後どうします?ま、ここは一つ。キャバクラとか!?行っちゃいます!?」

食物連鎖のように若気の至りは続く、いくつになっても人は過去を振り返り、卑下し、自虐し、ときに反語的に羨んで自分の代わり様を振り返る。我々はそれを成長と呼んでいるわけだ。

俯瞰的に見ればそれらは大体において成長などしていない。周りは成長したと疑わないあなたや私を、別に今だって…?と、冷ややかに思っている。過去の選択肢の変更によって今の自分の立ち位置に差異が出るかは理解しかねる。ある小説の一節はこう説く

 

「どうせあなたはどんな道を選んだって今みたいな有様になっちまうんだ。」

 

たらればに終止符を打つ暴論ではあるが、これは時に丸ごと正しいと思わせる説得力がある、根拠はないけれど。過去に戻ったとして、何かを変えたとして、自分が今と決定的に異なる違う何者かになりうる可能性を積極的に肯定してはいけない。

可能性という言葉を無限定に使ってはいけない。我々を規定するのは、我々が持つ可能性ではなく、我々が持つ不可能性である。君は、パイロットになれるか?バニーガールになれるか?アイドル歌手に、必殺技で世界を救うヒーローになれるか?七つの海を股にかける海賊になれるか?ルーブル美術館の所蔵品を狙う世紀の大怪盗になれるか?

 

なれるかもしれない。

しかしありもしないものに目を奪われてもどうにもならない。

大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の他の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。

バラ色の人生など存在しない。なぜなら世の中はバラ色ではない。実に雑多な色をしている。

 

後悔するためだけに過去を振り返るべきではない、これから起こる未来を変えようと思うなら、自分を認める意外に他ない。先日私は知人女性の寝顔を見る機会があったのだが、こんなことに思考を走らせながら、過去を振り返った。

 

何歳だったか覚えていないが、その日私は性欲に非常に忠実だった。ワンナイトできるかどうかはいかに積極的にバットを振るかどうかにかかっている。若かったこともあり私はどんなボール球でもバットを振るつもりでいた。いわゆる街コンというものに参加していたのだが、その日私の目の前に投げ込まれた球は丁度打ちごろのど真ん中ストライクであった。端麗な顔立ちに未亡人のような幸の薄い雰囲気をそこはかとなく醸し出し、深い黒のワンピースを纏ったその女性は比喩表現でなく間違いなく私のストライクであった。しかし、しかしね、男性諸君にならわかってもらえると思いますが、こういう日はちょうどいいボール球のほうが振ってやろうっていう気持ちになるんです。容姿端麗は一回見送るんですよ。野球と一緒です。そう、なりませんかねえ!?セクシー女優はちょいぶさがいいのと一緒ですよ。或いは、たまに自分の趣味嗜好から若干逸脱したやつでいきたいのと同じ。今日は、外人ものじゃないとダメなんだ!!しかもやたらスポーティな音楽が流れてるやつ!!みんな、あるでしょう?女性はどうなんですかね。なんか今日はどうなっちゃってもいいかな♡って日にジョニーデップみたいなゴリゴリのイケメンが相手だったら開きかけの股、一旦閉じません?そういうことですよ。

兎にも角にも、枕が長くなりましたが、とどのつまりひとしきり彼女とお酒を楽しんだ後、たぶんなんかそのままいけそうな雰囲気もありつつも気が引けた私はそのまま岐路についてしまったのです。連絡先くらい聞いておけばよかった。

 

過去は振り返ってはいけない。どんな選択肢を選んだとしても今の自分があるのだということ、そのありのままの自分を認めなければならない。その過程はどうであれ、今の自分がここにあるのだ。

 しかし、そんなことは分かったうえで、家庭が結果に与える影響の少なさを自覚したうえで、それでも、いや、なおさらというべきか

 

網から逃がした魚はことのほか大きかった。

 

過去に、戻りたいですなあ。